事業の概要

1. 体性幹細胞再生医薬品分野

体性幹細胞再生医薬品は、生体のさまざまな組織にある幹細胞である「体性幹細胞」を利用して、現在有効な治療法のない疾患等に対する新たな治療法を開発することを目的とする製品です。
体性幹細胞には、神経幹細胞、間葉系幹細胞、造血幹細胞など複数の種類があり、生体のさまざまな組織に存在します。限定された種類の細胞にのみ分化するものや、複数の種類の細胞に分化するものもありますが、iPS細胞等との比較においては、分化する細胞の種類は一般に限られています。

■体性幹細胞再生医薬品分野のパイプライン(HLCM051)

HLCM051は、米国Athersys, Inc.(以下、アサシス社といいます。)が特許権・特許実施許諾権を有する幹細胞製品MultiStem®を用いた脳梗塞に対する細胞治療医薬品の国内における開発パイプラインです。

本パイプラインの対象疾患である脳梗塞は、脳の血管が詰まることにより、その先に酸素や栄養分が届かなくなり、詰まった先の神経細胞が時間の経過とともに壊死していく病気です。日本の年間発症患者数は23万人~33万人(総務省資料及びDatamonitor等を基に当社推定)、死亡者数は年間約6万4千人(厚生労働省人口動態統計)と推定され、発症した患者さんの中には死亡を免れても機能障害が残り、寝たきりや日常生活に介護が必要となる場合があることが知られています。
脳梗塞に対しては、脳の血管に詰まった血の塊を溶かす血栓溶解療法(t-PA治療)が行われていますが、血栓溶解療法の適応は発症後4.5時間以内に限定されており、脳梗塞発症後に治療できる時間がより長い新薬の開発が待たれる疾患領域となっています。アサシス社が創製した幹細胞製品MultiStemは、静脈注射により投与され、脾臓に分布して炎症免疫細胞の活性化を抑制する事により炎症や免疫反応を抑えて神経細胞の損傷を抑制し、神経保護物質を産生して治療効果を発揮すると考えられています。
本製品は、すでにアサシス社によって欧米にて第Ⅱ相試験が行われており、脳梗塞発症後36時間以内の患者さんに対する治療法となりうる可能性が示されております。当社は、この欧米での試験結果を参考とし、第Ⅱ/Ⅲ相試験をすすめております。
本治験の情報について、米国国立医学図書館が管理するウェブサイト"ClinicalTrials.gov"に登録・公開をいたしております。(Identifier: NCT02961504)

なお、HLCM051は厚生労働省より再生医療等製品として2017年2月に「先駆け審査指定制度」対象品目の指定を受けております。
先駆け審査指定制度についての詳細は以下の厚生労働省のサイトをご参照ください。
先駆け審査指定制度について

2. iPSC再生医薬品分野

iPSC再生医薬品分野では、難治性疾患を罹患された方々に新しい治療法を提供するべく、iPS細胞に関連する技術を活用した再生医療等製品(以下「iPSC再生医薬品」という。)の研究開発を行っております。

iPSC再生医薬品は、老化等の原因により機能不全に陥った細胞をiPS細胞から分化誘導して作製した健康な細胞に置き換え、機能回復を図るものであり、臓器移植に近似する治療効果が期待できる点に従来の医薬品と大きく異なる特徴を有しております。

当社は、iPSC再生医薬品分野を中核的な事業領域と位置づけており、現在、加齢黄斑変性に関する新たな治療法を開発することに注力しているほか、将来的にアンメットメディカルニーズの高い他の領域におけるパイプライン拡充にも積極的に取り組んでいく予定です。

【用語説明】

分化誘導(分化)

細胞が特定の機能を持った細胞(例えば神経細胞・皮膚細胞など)に変化することをいいます。iPS細胞は、自然に特定の細胞に変化していく訳ではないため、特定の細胞に変化させるための技術が必要となり、こうした技術を分化誘導技術と呼びます。

アンメットメディカルニーズ

まだ有効な治療方法が存在していない疾患に対する治療方法開発の必要性

一般的に、iPSC再生医薬品の原料となるiPS細胞は、罹患者自身から採取した細胞(自家細胞)から作製されたものと、他人の細胞(他家細胞)から作製されたものに大別されます。自家細胞を使用する場合、罹患者ごとにiPS細胞の作製から細胞の培養までを行う必要があるため、細胞調整に手間がかかり、罹患者個人間のばらつきが大きくなるほか、製造コストが膨らみ製造期間が長くなるなどの問題で多くの罹患者の方々を治療することが困難になると予想されます。そのため、当社は他家細胞を用いた治療方法を確立させることを目指しております。

<自家移植と他家移植の違い>
自家移植と他家移植の違い

■iPSC再生医薬品分野のパイプライン

①他家iPS細胞由来網膜色素上皮(RPE)細胞による加齢黄斑変性の治療法開発(HLCR011、HLCR012)

当社は、他家iPS細胞を正常な網膜色素上皮細胞(以下、RPE細胞といいます。)に分化誘導し、純化した上で、iPS細胞由来RPE細胞懸濁液という形で罹患者に移植し、加齢黄斑変性の治療を行うiPSC再生医薬品の開発を進めております。

加齢黄斑変性は、網膜変性疾患の一種であり、網膜の中でも視力を保つために極めて重要な役割を果たす「黄斑部」に障害が生じる病気で、発症すると次第に視力が低下したり、見え方に異常が生じるなどの症状が現れます。発症の原因は黄斑部を支えるRPE細胞が老化等の原因により感覚網膜への栄養補給や老廃物の分解ができなくなってしまうこととされていますが、根本的な治療法は確立されておりません。

加齢黄斑変性は、網膜の裏側に異常な新生血管が生えて網膜を傷つける滲出(しんしゅつ)型(ウェット型)と網膜の細胞が萎縮する萎縮型(ドライ型)に大別されますが、いずれの場合も前述の原因により発症するものと考えられております。

加齢黄斑変性に対するRPE細胞の移植治療法

当社が開発を進める治療法は、RPE細胞を含む懸濁液を注入し、又は、変性後のRPE細胞を摘出し新たにiPS細胞から作られたRPE細胞のシートを移植し、患部に定着させる方法となります。この治療法により、感覚網膜への栄養補給や老廃物の分解機能を回復させ、視機能を改善させる効果が期待できます。また、当社の治療法は、ウェット型の加齢黄斑変性及びドライ型の加齢黄斑変性の両方を適応症として、実用化を目指しております。

iPS細胞由来RPE細胞懸濁液を用いた加齢黄斑変性の治療法
加齢黄斑変性の患者数
加齢黄斑変性の患者数
国内における他家iPS細胞由来RPE細胞による加齢黄斑変性の治療法開発(HLCR011)

製造販売承認の取得後は、国内においては、京都大学iPS細胞研究所から提供を受けた他家のiPS細胞の親株を用いて、当社が考案した効率的な分化誘導方法により、iPS細胞からRPE細胞を分化誘導、製剤化を行った上で、医療機関に販売し、各医療機関において罹患者への施術・投与がなされることを予定しております。

国内におけるiPS細胞の製造からiPSC再生医薬品として製剤化されたRPE細胞の罹患者への投与までの流れ

当社は、大日本住友製薬との間の実施許諾契約及び共同開発契約に基づき、同社からの契約一時金及びマイルストン収入あわせて16億円(うち7億円は受領済み)並びに同社による最大52億円の開発資金負担並びに当社の自己資金をもとに、国内におけるiPS細胞由来のRPE細胞の開発を同社と共同で行い、当社が製造販売承認の取得及び販売を行うことに合意しております。さらに製造及び販売促進を共同して行うため、2014年2月28日付で両社共同出資により株式会社サイレジェン(以下、「サイレジェン」といいます。)を設立し、製造を行う準備を進めております。

当社は、サイレジェンに製造及び販売促進業務を委託し、これらの委託費用を支払う一方で、サイレジェンの当社に対する製品売上に対して同社からロイヤルティ収入を得るとともに、サイレジェンから供給を受けたRPE細胞を医療機関に販売することにより製品の販売収入を得る計画です。

収益モデルの概要
海外における他家iPS細胞由来RPE細胞による加齢黄斑変性の治療法開発(HLCR012)

当社は、当社の開発するiPSC再生医薬品が、国内のみならず世界各国の難治性疾患の罹患者の方々にとって需要のあるものと考えております。そのため、当社は、海外における事業展開を加速していくことが肝要であると考え、既に米国における医薬品受託製造会社の選定を完了し、技術移管に着手しております。また、米国の規制当局とも事前相談を開始しております。

②臓器原基を用いた3次元臓器(HLCL041)

当社は眼疾患の領域に加えて、アンメットメディカルニーズの高い他の領域におけるパイプラインの拡充にも積極的に取り組んでいます。具体的な取り組みの一例が、公立大学法人横浜市立大学(以下、横浜市立大学といいます。)と2014年10月に全世界における独占的な特許実施許諾契約を締結した、臓器のもとになる臓器原基を人為的に作製する新規の細胞培養操作技術を用いた機能的なヒト臓器の作製です。同技術は、胎内で細胞同士が協調し合って臓器が形成される過程を模倣するという発想から開発されたもので、3種類の細胞(内胚葉細胞、血管内皮細胞、間葉系幹細胞)を一緒に培養することで臓器のもとになる立体的な臓器原基(臓器の芽)を人為的に創出する新規の細胞培養操作技術です。横浜市立大学では、2019年に新生児の代表的な代謝性肝疾患である「尿素サイクル異常症」を対象とした臨床研究を実施する計画が進められています。

この実用化に向け、当社は代謝性肝疾患を対象とした再生医療等製品(3次元臓器)を開発するべく横浜市立大学との共同研究を進めています。肝臓は、たんぱく質など身体に必要なさまざまな物質を合成し、不要有害な物質を解毒、排泄するなど約500種類もの機能を、約2000種類以上の酵素を用いて果たしている体内の化学工場といえる臓器です。代謝性肝疾患は、生まれつき特定の酵素が欠損していること等により必要な物質を作ることができない肝臓の疾患で、国内で年間約30名、欧米で年間約390名が新たに発症していると推定されます。
HLCL041は、肝臓へ肝臓原基を注入し、機能的な肝臓に育てることで、生まれつき生産できない酵素を生産できるように肝臓機能を改善させることを目的とした再生医療等製品であり、臓器移植の代替治療とするべく、ヒトへの移植が可能なヒト肝臓原基の大量製造方法の構築、さらに作製されたヒト肝臓原基の評価方法や移植方法を検討していく考えです。

現在、臓器が適切に機能しない疾患に対しては、機能を損なった臓器を健常な臓器へ置換する臓器移植が有効な治療法として実施されています。しかしながら、年々増大する臓器移植のニーズに対し、ドナー臓器の供給は絶対的に不足しており、iPS細胞等を用いて作製した臓器原基をヒトの体内に移植することによって機能的なヒト臓器を創り出すという新たな再生医療等製品(3次元臓器)は、臓器移植の代替治療としての新たな治療概念を提唱できるものと期待されます。

■iPSC再生医薬品分野における新しい取り組み

iPSC再生医薬品の将来の基盤技術となりうる新規技術・ノウハウを国内外の公的研究機関や企業等から積極的に獲得し、実用化を加速させることが重要であると当社は考えております。
この方針の下、2016年4月、当社は米国Universal Cells, Inc.と共同研究契約を締結いたしました。HLA型に関わりなく免疫拒絶のリスクの少ない、次世代のiPS細胞の開発を目指し、同社の持つ遺伝子編集技術を基に研究を進めております。