肝疾患とは

肝臓には、主に3つの働きがあります。1つ目は、食べ物により取り入れた栄養素を身体に必要な物質への合成や貯蓄をする働き(代謝)、2つ目はアルコールなどの有害な物質を解毒・分解する働き(解毒)、3つ目は食べ物を消化するために必要な胆汁を合成・分泌する働き(合成)です。何らかの原因により肝臓に障害が起き、必要な物質を代謝や解毒、合成ができなくなると、生命維持に大きな影響を及ぼします。
肝疾患として知られているものの中に、新生児で発症する尿素サイクル異常症や肝硬変があります。
尿素サイクル異常症は、身体に有害なアンモニアを解毒し尿素を生み出す代謝経路(尿素サイクル)で必要な酵素に先天的な異常があるため、アンモニアを解毒することができず発症する疾患です。血液中のアンモニア値が上昇する高アンモニア血症により中枢神経障害が起こり、新生児期に発症した場合、適切な治療を受けないと死に至るか、知的発達障害などの後遺症が残ることもある重篤な疾患です。
肝硬変は、ウイルス感染、脂肪性肝炎などが原因で肝臓に傷が生じ、その傷を修復するときにできる「線維(コラーゲン)」というタンパク質が増加して肝臓全体に拡がった状態をいいます。肝臓が小さく硬くなることで、正常に肝臓が働かなくなり肝臓の機能が失われていきます。

罹患者数

尿素サイクル異常症は、国内で年間約30名、欧米で年間約390名が新たに発症していると推定されます。

  米国 日本 欧州その他 合計
患者数(年間) 約160人 約30人 約230人 約420人
  • ※患者数は、新生児数および発生率を基に当社にて推定

一方、肝硬変の国内の患者数は40~50万人で、そのうち、医療機関を受診している肝硬変の患者さんは約56,000人と推定されています。また、肝硬変で亡くなる患者数は年間で約17,000人と言われています。

  • ※(出典)「肝がん白書2015(日本肝臓学会発行)」「平成23年患者調査(厚生労働省)」

現在の治療法

尿素サイクル異常症は、軽症例においても食事療法や薬物療法といったアンモニア値の低下を図る治療法を生涯にわたり続ける必要があります。肝硬変では食事制限や薬物療法により病気の進行を遅らせたり、症状を和らげる治療が行われています。重度の尿素サイクル異常症や肝硬変などにおいては、根本治療法は肝臓移植しかありません。肝臓移植のニーズは年々増大していますが、ドナー臓器の供給は絶対的に不足しており、多くの課題を抱えています。

肝臓移植の件数(年間)
  米国 日本 欧州その他 合計
実施患者数 約6,000人 約400人 約4,000人 約1万人
待機患者数 約15,000人 約400人 約4,000人 約2万人
  • ※「日本肝移植研究会」「UNOS」「Eurotransplan」「UK Transplant」「Agence de la biomédecine」「 Scandia Transplant」公表資料を基に当社にて作成

ヘリオスが目指す治療法「3次元臓器」

私たちは、2014年から公立大学法人横浜市立大学と機能的なヒト臓器(3次元臓器)の作製に関する共同研究を開始し、肝臓の機能を改善させることを目的とした再生医薬品の開発に取り組んでいます。
iPS細胞から作製された肝細胞や腎細胞などに分化する前の前駆細胞(臓器の細胞)を、細胞同士をつなぐ働きなどを持つ間葉系幹細胞と血管を作り出す血管内皮細胞に混合して培養することで、血管構造を持つ立体的な臓器の原基(臓器の芽)を作製することができます。

3次元臓器のメカニズム

このように作製した肝臓原基を患者さんの肝臓へ注入し、育てることで、欠損した肝臓機能を改善させることが期待されています。
肝臓原基を肝不全モデルマウスに移植した実験では、肝臓原基から形成された臓器がマウスの血管網と自律的に繋がることが明らかになっています。また、ヒトiPS細胞(ヒトの人工多能性幹細胞)由来の肝臓原基を移植したマウスは、移植していないマウスに比べて、生存率が有意に改善していることが分かっています。

ヒトiPS細胞由来肝臓原基移植の治療効果

さらに、3次元臓器は臓器移植の代替治療となる可能性があると考えており、ヒトへの移植が可能なヒト肝臓原基の大量製造方法の構築、作製されたヒト肝臓原基の評価方法や移植方法を検討していく考えです。